2006年8月27日

研究費の不正な使用に関する対策チーム検討結果

文部科学省の研究費の不正な使用に関する対策チームが、
公的研究費の適切な使用の徹底を図るための方策を検討していましたが、この度その結果がまとまったようで、公開されています。

(文部科学省/2006.08.22)(抜粋)

研究費の不正な使用に関する対策チーム検討結果

 本対策チームは、公的研究費の不正経理の問題が起きたことを契機に、競争的資金を中核にしつつ、公的研究費の適切な使用の徹底を図るための方策等について検討を重ねてきた。その結果を以下のとおりとりまとめる。

1.現状認識

・競争的資金は多様な優れた研究計画を支援する点から重要。
・優れた研究は、研究者の研究に対する創意と熱意から生まれるものであり、研究資金制度はそうした研究者の創造性を引き出すことにより、最大限の成果が得られるよう構築・運用される必要がある。
・科学技術政策を進めていく上で、国民の理解と支持を得ることが基本であり、研究費は公正かつ効率的に使用されなければならない。
・研究者による公的研究費の不正な使用は、自身だけでなく、所属機関や他の研究者の信用をも失墜させ、ひいては科学技術に関する国民の信頼を損なう行為。
・研究費の不正な使用を防止する対策は講じてきており、それらの対策の効果は後日の検証を待つ必要があるが、不正な使用を発生させる構造的な問題についての対応は不十分であり、さらなる取組が必要。
・競争的資金などの公募型の研究資金(以下「競争的資金等」という。)については、研究者にとって自ら確保した資金であるという認識が強く、研究機関側の管理も機関そのものの活動資金である運営費交付金に対するものより緩やかなものになりがちであり、交付の対象者や研究課題も様々であることから、その管理体制の整備は特に重要な課題。
・以上の認識を基に、競争的資金等を対象に、文部科学省としての対応方策を講じることが必要。


2.問題の分析

(1)不正の事例

1 研究費の不正な使用は牽制効果が及んでいない部分、特に消耗品の調達、アルバイトの勤務管理、出張の処理等で発生しやすい。
2 これらの不正事例は、研究者本人が単独で行うものもあるが、取引業者や研究室メンバーなどが関与する場合が多い。
3 不正により得られた資金はプールされ、競争的資金等が措置されている本来の研究課題とは別の研究に使用される場合が多い。

(2)不正防止の体制等の問題点

1 研究費の使用に当たっては、競争的環境にある研究者のニーズへの柔軟な対応を妨げず、かつ適切なチェックを行う仕組みが必要である。消耗品の調達について、研究の実施部署が業者発注を行い、検収も同一の部署が行うということが多くの機関でなされているが、このことは、研究者のニーズへの迅速な対応を可能にしているという面はあるものの、内部牽制が働かない点で改善を要する課題である。
2 アルバイトの勤務実態の把握については、大学等の研究機関ではその勤務時間が不規則な傾向がある上、研究室との信頼関係に配慮して、事務部門が直接研究室内部の実態把握を行うことに抵抗感があるなどの困難さがある。
3 旅費については、出張の詳細な実態把握による牽制効果の発揮と事務手続きの合理化のバランスをとる必要があり、出張者に求める報告や証拠書類等の種類や詳細さの程度は研究機関によって様々である。
4 研究者が研究費の不正な使用を行った場合、個人の問題とされ、組織的な問題として受け止める姿勢に乏しい。
5 監査の体制は整備されつつあるが、実効性のある監査が実施されるか否かは担当者の意識にも依存し、改善の余地がある。
6 内部告発を受け付ける体制は未だ整備途上にある。また、不正事例が生じた際の報告・処理体制が整備されていない。


3. 対策案

 競争的資金等の制度は、資金の性格(補助金・委託費)、趣旨、助成対象者(機関・個人)、助成金額の規模等に差異があり、これらの資金を受給している研究機関の規模や取り扱う額の規模も多様である。また、不正の態様も事務処理上の不適切な執行や研究者による意図的な不正使用など様々である。これらを踏まえ、以下のような実効性ある方策を講じることとする。

(1)公的研究費の使用に関するルールの徹底と研究者の意識向上の方策

1 研究費の管理・運営に関する基本方針の明確化
研究機関は、当該機関における公的研究費の管理・運営の基本方針を集約し、当該機関の長の方針として内部に周知徹底するとともに、外部に公表する。
2 ルールの周知
文部科学省を含む資金配分機関は、ルール上可能な事例、違反となる事例を分かりやすく説明したハンドブックを作成し、配付又はホームページ上への掲載等により周知する。また、府省共通システムなどにより電子申請を導入する際には、申請に先立ちウェブ上で申請者にルールのポイントを周知するなどの方策も検討する。
研究機関は、機関内のルール等、必要な事項について研究者向けの研修を充実し受講を義務付けたり、競争的資金等に採択された研究者から、ルールを遵守する旨の誓約書の提出を求め、その意思を直接確認したりすることでルールの周知徹底を図り、研究者の意識改革を促す。
3 アンケート調査の実施
文部科学省は、研究者から、「どの制度の、どの規定内容が、どの場面で、どのような工夫を講じてもなお、どのような点で使いにくいか」といった具体的な問題点について、意見を聴取する(研究機関を通じたアンケートやホームページでの意見募集などが考えられる)。その結果を各資金制度間で検討の上、各制度共通の問題と個別の制度の問題とを整理し、各制度の改善に反映させるとともに、可能な限りルールの統一化を図るなどして、研究者にとって使いやすい制度に揃える方向で調整する。

2研究機関の内部における研究費の管理・監査体制の整備の方策

1 小規模な企業や団体を対象とする資金などの場合を除き、研究者の所属する機関は、競争的資金等への応募に先立ち、以下のような点について、当該機関の取組方針について資金配分機関に対して明瞭な形式で申告する。また、大学及び公的研究機関は、その内容をホームページ等で公表する。
(i)組織内での競争的資金等の取扱の権限及び責任者
(ii)納品検収・勤務状況確認等の実効性ある研究経費管理体制の整備
(iii)不正な取引に関与した業者への処分方針(取引停止など)
(iv)不正な取引に関与した研究者・事務職員への処分方針

2 研究機関における研究費管理・監査体制の整備状況の確認
(i)各研究機関において研究費の適正な管理と実効性ある監査を均質的に実施できる体制が整備できるよう、文部科学省が研究機関における公的研究費の管理・監査の実施基準(ガイドライン)(受給額の規模や機関による自主的な取組等に配慮したもの)を策定する。
(ii)各研究機関は一定期間内に所要の体制を構築する。体制整備後はその運用状況を資金配分機関及び文部科学省に報告する。(現在科学研究費補助金で実施中の監査報告書などの内容も含む。)
(iii)文部科学省(及び資金配分機関)は、対象機関の受けている資金の規模等に応じた定期的調査のほか、(ii)の報告の内容やその他の情報に基づき研究機関からのヒヤリングや実地調査を実施する。
(iv)文部科学省(及び資金配分機関)は調査結果に基づき、必要があれば研究機関に対して改善に向けた指導・助言を行う。
(v)指導・助言を受けた研究機関は、改善計画を文部科学省(及び資金配分機関)に提出する。
(vi)文部科学省(及び資金配分機関)は研究機関の改善計画の進行状況を把握する。研究費管理体制の改善に向けた対応が適切さを欠くと判断される場合や、研究機関が関与した極めて悪質な不正事案であると判断される場合は、各研究資金の性格や制度の趣旨に応じて、何らかの措置(事実の公表、研究機関に対する間接経費の減額査定、機関としての申請等資格制限等)を行う。

3  研究費使用に関する相談窓口の設置
研究機関は、日常的に研究者等が研究費の使用条件等について相談できる相談窓口を設置する。

(3)研究機関における公的研究費にかかる報告体制の在り方

1 内部通報窓口の整備
各研究機関は、違法行為の抑制、業務の適法化(不正の深刻化の防止)、組織内の意識改革等のため内部通報窓口を設置し、各機関の実情に合った形態で適切に運用する。
2 文部科学省等への報告
公的研究費に係る不正が発覚した場合は、当該研究機関は予備的な調査を開始した段階で、当該事案を速やかに資金配分機関及び文部科学省に報告するとともに、調査の実施など適切な対応方策を講じる。

(4)文部科学省(資金配分機関も含む)の関与

1 ルールの共通化・統一化・簡素化
文部科学省は、(1)の3のアンケート結果なども踏まえ、研究現場での利便性向上のため、各研究資金の性格等を踏まえつつ資金制度側のルールの統一化等を図るなど、可能な限り、研究者にとって使いやすい制度に揃える方向で調整する。
2 競争的資金以外の提案公募型研究資金への対応
競争的資金以外の提案公募型研究資金への申請等資格制限の一斉適用の拡大を検討する。
3 制裁減免措置
一定の期間を定めて、その期間内に研究者(研究機関)が自らの過去の不正使用について自発的に申し出た場合には申請等資格制限を減免する措置を導入する可能性について検討する。なお、その場合でも、資金の返還は減免しないものとする。
4 研究機関における研究費管理・監査体制の確認への対応
上記(2)2への対応を行う。そのため、文部科学省に担当室を新設し、体制を整備する。
5 研究費の使用に関する相談窓口の設置
研費の不正な使用に関する告発の窓口と併せ、上記4の担当室で研究費の使用に関する相談に対応する。
6 事後確認手法の改善
事務負担の増大を招かないように配慮しつつ、額の確定調査等において確実に事後チェックが行えるよう、提出を求める証拠書類の見直しなど、事後確認手法の改善を図る。
7 間接経費の拡充
機関管理の充実のため、間接経費の積極的な活用を促す。また、第三期科学技術基本計画においても記述されている間接経費30パーセントの早期実現を図る。その際、大学・試験研究機関等への基盤的資金と競争的資金のそれぞれ固有の機能、役割を踏まえつつ、両者の有効・適切な組み合わせという観点からも検討を行う

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